肛門外科について
肛門外科では、皮膚である肛門と内側の粘膜である直腸、肛門と直腸の境目の歯状線、そして肛門周辺の組織を診療しています。歯状線には肛門陰窩という小さなくぼみが並んでいて、中には肛門腺の分泌口があります。
肛門は、便意を感じてトイレに行くと出口をゆるめて便の排出を促しますが、それ以外の時にはしっかり閉じて液体や臭いを漏らしません。また、内側から圧迫された際には、それが気体かどうかを判断して、気体だけおならとして出すというデリケートなコントロールも行っています。
肛門の収縮や弛緩という機能を担っているのは内肛門括約筋と外肛門括約筋ですが、肛門周囲に豊富な毛細血管が網目状に広がる静脈叢がクッションの役割を果たすことで液体や臭いも漏らさないほど高度な密閉状態をつくっています。痔をはじめとした肛門疾患が悪化すると、こうした括約筋や静脈叢が大きなダメージを受けて機能を果たせなくなり、生活の質を大幅に低下させてしまいます。
肛門疾患はできるだけ早く適切な治療を受けることで楽に治すことができます。また再発しやすいため、再発予防も視野に入れた治療が不可欠です。当院では、患者様の心身にできるだけ負担をかけない治療を心がけており、発症の原因にアプローチした治療によって再発予防につなげています。肛門に関するお悩みがありましたら、お気軽にいらしてください。
痔の種類
肛門疾患で最も患者数の多いのは痔疾患です。痔には、いぼ痔、切れ痔、痔ろうがあり、いぼ痔は直腸粘膜にできる内痔核と肛門の皮膚部分にできる外痔核に分けられます。
いぼ痔(痔核)
強く長いいきみ、便秘や下痢、冷え、刺激が強い香辛料、過剰なアルコール摂取、長距離運転・デスクワーク・立ち仕事などで肛門に大きな負担がかかると、クッションの役割を担っている静脈叢がうっ血して腫れ、いぼ痔を生じます。
肛門の皮膚部分にできる外痔核は、知覚神経があるため痛みを生じることが多くなっています。一方、直腸の粘膜部分にできる内痔核は痛みを生じにくいため、排便時の出血や痔核の脱出によって気付くことがほとんどを占めます。
現在はある程度進行していても薬物療法で治せる可能性があります。また内痔核に関しては注射による治療も可能になっています。
切れ痔(裂肛)
便秘による太くて硬い便によって生じることが多いのですが、激しい下痢で切れ痔を発症することもあります。排便時に強い痛みがありますが、大量に出血することはほとんどありません。切れ痔は便秘で再発を繰り返しやすく、悪化して傷が深くなると瘢痕化や線維化を起こして肛門が狭窄し、さらに切れやすくなるという悪循環を起こすため、便秘の解消も切れ痔の治療では不可欠です。進行すると肛門ポリープができることもあり、狭窄やポリープができた場合には手術が必要ですが、早期には軟膏や薬の内服などの保存的療法で比較的短期間で治すことができます。
痔ろう(あな痔)
肛門周囲膿瘍という疾患が進行して発症します。肛門と直腸の境目にある歯状線の肛門陰窩に下痢などで便が入り、肛門腺が細菌感染による炎症を起こして化膿している状態が肛門周囲膿瘍です。化膿による膿が出口を求めて肛門周囲の静脈叢などの組織にトンネル状の穴を開けながら進み、肛門周囲の皮膚までつながるトンネル状の穴ができてしまった状態が痔ろうです。肛門周囲膿瘍は、化膿による痛みや熱感、腫れ、発熱などの症状を起こしますが、進行して痔ろうの状態になると皮膚の穴から膿が排出されるため症状はなくなります。ただし、トンネル状の穴が自然治癒することはなく、放置していると肛門周囲膿瘍を繰り返して複雑な枝状に広がって肛門機能にダメージを与えるリスクが上昇します。痔ろうは手術でしか治せませんし、トンネル状の穴が複雑になってしまうと手術が困難になってしまいますので、早めの受診が重要です。